2016年 世界祈祷日 キューバからのメッセージ

 2016年3月4日(金)西部地区連合婦人会主催世界祈祷日 於板宿教会

マルコによる福音書10章13ー16節

子どもを受けいれなさい、そしてわたしをも

 牧野信成(西神教会)

キューバからのメッセージ

 今年の世界祈祷日にはキューバからのメッセージが届けられています。「子どもを受けいれなさい、そしてわたしをも」とありますが、これは先ほど読まれました『マルコによる福音書』の10章の少し前にある9章37節の御言葉によるものです。

 わたしの名のためにこのような子供の一人を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。

その文脈によりますと、弟子たちは自分たちのうち誰がいちばん偉いかと言い争っていました。そこで、主イエスが一人の子供を彼らの真ん中に立たせて、そのように弟子たちを諭されたとあります。誰もが自分の価値を認めてもらいたい。それで必ずしも表には出さなくとも心のうちで自分自身を人よりも高く見積もろうとしてしまう。そういう思いはおそらく子どもの頃から私たちの中に芽生えてくるのでしょうけれども、互いに競う大人たちの間では一顧だにされない小さな子どもを主は抱き上げて、イエスご自身のまなざしを彼らに示されたのでした。大人たちが互いに競い合って自分の視界から追い出してしまった子どもたちこそ神の重大な関心事なのだ、ということです。

 どうしてキューバの姉妹たちがこのようなテーマを設けたのか、すぐには分からなかったのですけれども、送られてきたパンフレットから幾分あちらの様子が伺えました。

 キューバと言えば、野球が盛んであったり葉巻の名産地であったりすることの他、あまり関心は持たれていない国かもしれません。あるいは世界を第三次世界大戦の恐怖に陥れた1960年代のキューバ危機を思い起こすかもしれません。

 1902年にアメリカの力を借りてスペインからの独立を果たしたキューバ共和国は、1950年代の革命によって社会主義国として生まれ変わりました。しかし、自由主義国アメリカの喉元に刺さった棘のように看做されたキューバは、その後アメリカとの対立を深めると共に、米ソ冷戦の構造に組み込まれて1962年にはソ連が配備した核ミサイルをきっかけに、全面的な核戦争の一歩手前に至ります。その時の米国大統領はジョン・F・ケネディでした。最悪の事態は回避されたものの、ソビエト崩壊と共に東側の後ろ盾を失ったキューバはアメリカの経済封鎖の下で生活物資の調達が困難になり、長い期間の貧困に苦しめられることになりました。

 送られて来たパンフレットには、2013年から2014年の間にキューバで作られた祈りの式文が記載されていて、次のような祈りが含まれています。

 日々霊と肉の糧を与えられ、感謝します。経済危機の中で、辛い思いをしている家族と共にいてくださるように祈ります。

 私たちの国での社会的、経済的、文化的、霊的発展のため働いている人々に感謝します。立ちはだかる経済封鎖の壁を打ち壊し、私たちがまちこがれている希望の扉を開いてください。

50年以上に渡る経済封鎖によって国民の不満が募り、暴力が蔓延し、若者たちは豊かな先進国へ流出して、高齢化の波が押し寄せている。「子どもを受けいれなさい」とある「子ども」の姿に、キューバの兄弟姉妹たちは、締め出されて貧困の中に見捨てられている自分たちを映して見ているのでしょう。

子どもを招くイエス

 自分の特権的な立場を競い合う弟子たちにとって、祝福を分けていただこうと子どもを連れてくる人々は煩わしい存在でした。彼らを妨げる弟子たちの振る舞いに、イエスは激しく憤って命じます。

 子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである。はっきり言っておく。子供のように神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。

イエスを信じない者はそもそも近づいて来ようとはしません。また、信じる弟子たちであっても、自分には祝福を受ける特権があると自負して、イエスの周りに自分専用の指定席を設ける算段をしている者たちは神の国には入れません。神は子どものように自分では何もできない者たちをイエスのもとに集めます。子どものように祝福を受けるがままでいる無力なものたちを神の国に入れてくださいます。しかし、キリスト教国と目される最も近い国の兄弟姉妹たちは、経済封鎖によって自分たちの周りに壁を築いてしまっている。「わたしの名のためにこのような子供の一人を受け入れる者は、わたしを受け入れる」のであれば、キリストの名にも関わらず子どもの一人も近づかせない者は、キリストを拒むことになるのではないか。

キューバ教会の証

 「共産主義国は悪」というようなレッテル貼りには注意が必要です。キューバはもともとスペイン領であったことから、国の宗教はカトリックでした。革命以来の無神論政策によって教会が弾圧された時期もありましたが、1990年代に信教の自由が認められて以来、人々はキリスト教信仰を隠す必要もなくなり、今では長老派を含む60以上のキリスト教各派が教会を建てているそうです。そして、経済的な困難の中、キューバは医療と教育の面において先進国にも劣らない豊かな発展を遂げています。

 例えば、キューバでの医療費は基本的に無料です。パンフレットにはこう記されています。

 キューバの医療の原則は、治療が必要な人は宗教、主義、思想、人権、性別に関係なく誰でも無料です。

 産婦人科系治療は女性の基本的権利に基づいて、女性が地震の身体や発育に関して、また出産や不妊治療なども受けられます。出産は、全て専門病院で行います。その結果、幼児死亡率が最も低い国の一つになっています。

アメリカの医療事情を扱ったマイケル・ムーア監督によるドキュメンタリー映画『シッコ』では、入院費を払えなくなった患者が夜中に病院から道端に捨てられる衝撃的な映像が伝えられました。また、「オバマ・ケア」と呼ばれる低所得者のための保険制度を逆手に取った医療業界の仕組みによって、地域医療に携わる医者は患者を見れば見るほど破産しかねない状況に追いやられて、深刻な医者不足に直面しているアメリカの様子を堤美香さんがルポルタージュしています。それに比べて、先の映画では、キューバの医療が一部紹介されています。

 アメリカ国内でまともな保険に入ることができず、治療を受けることができない男女数名を集めて、マイケル・ムーア監督は、唯一、無料で治療を施している場所を目指して出発します。それはキューバにある米国基地に付属するグァンタナモ刑務所です。捕虜虐待で名高いその刑務所では収容されている政治犯に対して無料で診療が行われている。それなのに、国民が保険料を払えず、治療も受けられないのはおかしい、と一行はボートに乗ってグァンタナモ刑務所に向けて海を渡ります。フロリダからキューバ島まではおよそ145km、刑務所の手前でボートを止めて監督は拡声器で呼びかけますが、当然のように応答はなく門前払いとなります。そこで一行はキューバの港を目指します。町には現代的な立派な病院が建っていて、多くの患者で溢れていました。そこへ外国人でも治療が受けられるかと尋ねると、もちろん、と言われて、一行は一人一人に必要な診断を受け、薬も処方してもらいます。もちろん、費用はタダです。

 キューバの医療は国民のための制度として評価されるばかりでなく、海外への医療奉仕者が非常に多いところにも優れた特徴があります。2012年のデータでは、15,000人以上の医師が世界66カ国へ派遣され、また毎年世界中から医療留学生が多数キューバを訪れます。キューバは人口1,000人当りの医師の数が世界一です。

 また医療とも関連する領域ですが、防災対策についてもキューバは世界的な評価を得ています。例えば、カトリーナと名付けられたハリケーンが2005年8月にアメリカ南東部に多大な損害を与え、死者の数は1,800人以上に上りました。それと同規模のハリケーンが2008年に三回たて続けにキューバを襲いますが、それによる死者の数は合わせて7人。避難所にはペットのための場所があり、獣医まで配置されているという用意周到さなのだそうです。

 もう一つ挙げておきますと、無料と言えば、キューバでは教育費もタダです。教科書や学用品は無償で支給され、その教科書と制服は大切にされて、次の学年がそのお下がりをいただきます。成人の識字率は99.8%に上り、これは日本やアメリカよりも高い数字だそうです。さらに大人も望むならば無料で教育を受けることができます。1976年に制定されたキューバ共和国憲法の一文を紹介しますと、第51条で次のように教育について定められています。

 すべてのものは教育を受ける権利を持つ。この権利は広範で無料の学校制度により保障される。寄宿舎制度、奨学金制度はすべての教育水準で適用され、教材費は無料で各児童と若者に配給される。家庭の経済状況がどのようであれ、各人の能力・社会的要請に応じて勉強を履修する権利を持つ。成人男女は、同様に無料で教育を受ける権利を持つ。[1]

二度に亘る独立闘争と経済封鎖の逆境を通して忍耐と努力の末にたどり着いたのが、こうした医療と教育という人間の命の尊厳に関わる領域での充実であったわけです。

キリストの証人として

 ここからして、キューバの兄弟姉妹たちは主に抱き上げられた子どもを見て、決して無力な自分の姿だけを見ていたわけではないことが分かります。そのように主に抱き抱えて祝福された子どもである自分を知りながら、そこから改めて主の言葉を聞く積極性も持っていたのではないかと思います。祈りの式文にはこう記されています。

 私たちは、あなたが愛をもって創造され、神に覚えられている者であることを信じ、(そうあることを)約束します。

 心優しい言葉を使い、人を許す隣人となり、どのような人でも、神の前に比べることのできない大切な存在として受け入れ、正義と平和への望みを未来に持ち続け、子供達が夢を見、笑、踊り、愛することができるように支えます。

 「子どもたちを受けいれなさい、そしてわたしをも」という主イエスの御言葉をキューバの兄弟姉妹たちは自分で聞き、そこに受けいれられた自分を信じ、そして御言葉に従っていく実践を通して、そのメッセージを意味のある実現可能なものとして、世界の教会に向けて発信しているのだと思います。

 そして近年、キューバには驚くべき展開がもたらさました。この祈りのしおりが記されて直後のことです。2014年12月に米国との国交正常化が発表されて、それ以来、キューバへの経済制裁が解かれる可能性が出てきました。関係の改善は着実に進められていますが、この3月21日には米国大統領としては88年ぶりにオバマ大統領がキューバを訪問し、ラウル・カストロ議長と会談することになっています。キューバの姉妹たちの祈りは聞かれて、新たな希望をもって子どもたちの将来を望むことができるようになりました。

 比べて日本はどうかとも思います。子どもたちばかりでなく、若者たちや女性たちも、病気や障害を持った人も在留外国人も、一度金目にならないと見なされればまるで難民であるかのようです。政治の世界では、自分を自分で価値がありと看做して高みに登った者たちが、人間かまくらをつくって、自分の手にした特権に近づかせないようガードを固める体たらくです。シリアから逃れた難民の数は昨年だけで100万人を越えました。その中には命を失った多くの子どもたちが含まれます。世界はどんどん子どもたちが安心して住むことのできない世界になってゆきます。

 「子どもたちを受けいれなさい」という主の命令を、私たちは今、どのように聞いたらよいでしょうか。これは弟子たちに語られた言葉です。教会に召された私たちならでの受け止め方があるはずです。キューバの教会が苦しみながら形にした社会的な実践は、それを信仰の目で見る私たちにとって、大きなチャレンジであると同時に、励ましであるに違いありません。ですから、今日はキューバの兄弟姉妹たちと共に、世界に散らばる主の弟子たちと共に、「子どもたちを受けいれることができるように」と祈りたいと思います。私たちは主イエスを信じた子どもです。ならば、主が招いておられる、小さな、傷つきやすい命の一つ一つを、私たちも大切にすることができるはずです。

祈り

慈愛に満ちた天の父なる御神、あなたは主イエスの元に幼い子どもたちを集めて祝福してくださいました。また、病に倒れた人々や、傷ついた女性たちをも招かれて、神の国に入れてくださいました。あなたの無償の愛によって迎えていただいた私たちが、自分の栄誉を求めて心を閉ざすのでなく、主イエスのまなざしをもってすべての人に触れ、あなたのもとに導くことができるようにしてください。あなたの御国を、どうか互いに受け入れあう人と人との交わりの中に見ることができるように、世界の教会を信仰と忍耐によって結び合わせ、希望を保たせてください。主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。

 



[1] ネットワーク地球村「お手本にしたいキューバ」

http://www.chikyumura.org/environmental/report/2013/03/01141021.html

以下が原文:

「何人も教育を受ける権利を有する。この権利は、教育のすべての種類及びレベルにおいて、学校における学校、半寮制、全寮制、奨学金及び教材の広範且つ無料のシステムにより、並びにすべての子ども及び青年に、家族の経済状態に関わらず、能力、社会の要請及び経済社会発展の必要に従い勉学する機会を与える学校の無償により、保障される。

 成人の男女は、無料の条件及び法律が定める特別の便宜により、成人教育、職業訓練の教育、企業及び国家組織の労働資格および勤労者高等教育コースを通じてこの権利は保障される。」

吉田稔「キューバ共和国憲法-解説と全訳-」

http://www.waseda.jp/folaw/icl/assets/uploads/2014/05/A04408055-00-0470102311.pdf

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